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help リーダーに追加 RSS 『僕と未来とブエノスアイレス』

<<   作成日時 : 2006/01/27 00:45   >>

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ブエノスアイレス、、、
ウォン・カーウェイ監督の『ブエノスアイレス』を観て以来憧れ続けている場所です。
場末のバーでは男女が官能的なタンゴを踊り、
ラテンの空気と対照的に南米のパリと呼ばれる美しい街並、、、もちろん私の想像です。
お金と時間があったら、すぐにでも飛んでいきたいと思っています。
そして、今回観た映画は『僕と未来とブエノスアイレス』。

[ストーリー]
場所はブエノスアイレスのユダヤ人街にあるガレリア(商店街)。
主人公アリエルは30才にもなろうというのに、
実家で母と二人暮らし、仕事は母の店(ランジェリーショップ)を手伝っている。
大学で建築を学び、絵の才能があるにも関わらず、どれも中途半端で投げ出したまま。
兄のジョセフはガラクタ雑貨の輸出入商。
向かいの店は老人の文房具屋でもうすぐ店をたたもうと思っている。
その向こうはイタリア人一家のラジオ修理屋、
韓国人夫婦(ほとんどスペイン語が話せない)の風水ショップに、
レビン兄弟(ほんとは従兄弟同士)の生地屋。
友人でもあるレヴィンは旅行代理店(ほんとは金融業)を、
セクシーなリタ(アリエルとはイイ仲)はインターネットカフェを営んでいる。

アリエルの母は、戦争に行くと言って出ていった夫のことを想い続けている。
そしてアリエルには夢がある。
多くのアルゼンチン人が望む、ヨーロッパ人になるということ。
そしてアリエルの祖父母はポーランド人。
アリエルもポーランド人になってポーランドに移住することを決めていた。
そんな時、顔も知らない父親が突然戦争から帰ってくる。
戸惑いながらも父と初めて言葉を交わす。
そして、両親が何故離ればなれになったのか、その真相を聞かされる。

[観おわって]
なんてミニマムな映画!
描かれているのはアリエルの半径500mの世界。
アリエルはどこにでも居そうなぱっとしない男の子、
彼が暮らすガレリアは、私の近所にある氷川台商店街と何ら変わらず、
最後まで、期待していたブエノスアイレスの空気を、
スクリーンいっぱいに感じる事はありませんでした。

しかしながら、知らず知らず、
そのミニマムで温かい人情商店街の中に自分もいるような、
何とも言えない心地よさを感じていました。
人間の目線そのままに荒く揺れるカメラワーク(酔いそうになった)には、
臨場感さえあり、
商店街の寄り合いシーンなどは、私も何か意見を述べなければ、と思ったほどです。

ささやかに暮らす人々の生活。
起こる事件と言えば、商店街対抗100m徒競走くらい。
そんな登場人物たちにも、それぞれが抱えた人生の機微があり。
母は父との別れを、
映画『ひまわり』のソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニになぞらえます。

ちなみに『ひまわり』という映画、、、
時は第2次世界大戦中のイタリア。
ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが恋をする。
男はロシア戦線に行き、そして戦争は敗戦におわる。
女は、行方不明になった男をロシアに探しに行き、とうとう見つけ出す。
しかし男は、ロシアの女に救われて所帯を持ち、子どもがいた。
男は女に会い、愕然とし、記憶が蘇る。
男はイタリアの女に会いに行く。
しかし、女も所帯をもっており、子どももいた。
別れる二人。

ここが笑えるのですが、真相はそんな映画みたいじゃない。
父が母と別れて出て行ったのは、
単に母が向かいの文房具屋のおやじと一回浮気したのがバレたから。
母は、夫がアルゼンチンに戻る事を聞き、
映画『ひまわり』の真似をしたのか、慌てて即席の恋人を作ります。
いや、これが本当の人間ってやつです。

一方アリエルは、自分を捨てた父の事を憎み続け、
父を想う母を疎ましいとさえ思っていたにもかかわらず、
初めて父と対面した時、父に対する様々な感情が一気に表れ、挙げ句どうしたか。
逃げたのです。それも全速力で。
恥ずかしかったのか、居たたまれなかったのか。
いや、これが本当の人間のリアクションってやつです。

愛すべきガレリアの人々。
彼らを通して見るべきは、そのコミカルな動きの中にある真実です。
「人間とは!」なんてそんなメッセージを声高に謳い上げた映画じゃありません。
滑稽で可笑しくて、でも憎めない人たちが見せる笑いや涙を通して、
「それでいいんだ」と肩の荷を下ろす、それでいいんです。

監督は、アルゼンチンの新星ダニエル・ブルマン。
“南米のウッディ・アレン”との呼び声も高いようです。
でも、、、
私はウッディ・アレンとムツゴロウさんがほぼ同じ理由で大嫌い。
一言で言うと、どちらも妙に‘あざとい’。
人間の(一方は動物の)愛すべき可笑しさを、
さも一段降りた所から真摯に描いているかに見えて、
それらはすべて計算(私にはそう見える)。
リアルな情景を見せているようで、一方はスタイリッシュに、一方はお涙頂戴に、
キレイに着地させてる感があり、はっきり言って気持ち悪い。
ダニエル・ブルマンが描いたこの映画にしても、
一見真実の表層を上滑りしていくかごとく、人々の描き方に深みはないのですが、
なぜか全く嫌味がないのです。
混ざり合わない個性はそのままに、
無理矢理一つの真理(強いて言うなら「愛」)へ導こうなんてハナから思っていない。
そんな映画が私は好きです。
そうは言っても、最後に聞かせてくれたポーランド人のおばあちゃんの歌には、
観ているものの心を一時温かくする、彼女の人生すべてが込められた想いがあり、
その歌を心で聞く事ができれば、それこそがこの映画の全てなのです。

まだ見ぬブエノスアイレスの、そこにある人々が織り成す人間模様。
世界は広い、けれどそこには確かに私と同じ人間の生活があるということ。
また一つ心温まる映画と出会いました。(★★★★☆)


『僕と未来とブエノスアイレス』
2003年アルゼンチン・フランス・イタリア・スペイン映画
監督・脚本・製作 ダニエル・ブルマン
出演 ダニエル・エンドレール/アドリアーナ・アイゼンベルグ/ホルヘ・デリーア


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