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help リーダーに追加 RSS 『バベル』

<<   作成日時 : 2007/05/16 02:16   >>

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ゴールデンウィーク中に、
話題の『バベル』を観てきました。
母と映画に行くのは、覚えているかぎり今回が初めてで、
帰りの車のなか、
この映画の、あるいは世界の不条理について話し、
私は母のことを、少し知ることが出来た気がしました。

モロッコの山岳地帯。
文明から取り残されたかのような遊牧民たちの生活。
そして、無知から起こった悲惨な事故。

アメリカの中流家庭。
洒落たマンションに白人の子供、メキシコ人の家政婦。
まるでわが子を見るような温かい眼差し。
そして、故郷のメキシコへ。

メキシコの結婚式。
ラテンのリズム、親族そして民族の血のつながりを確かめ合うように、
夜更けまで踊りつづける。
立ちはだかる国境の壁、露になる人種差別。
灼熱の砂漠で罪の無い子供達が犠牲になる。

そして話は日本へ。
物が溢れ、価値観が多様化する分だけ、
相容れない感情が、いたる所ですれ違う。
聾唖の少女。
持てあます自分の存在。
愛されたいのに愛されない、行き場のない孤独。

メキシコを含め4つの国の「今」が同時進行で映し出され、
あまりにも違うそれぞれの国の空気感に、
初めのうち、戸惑いをおぼえます。
しかし、映画が進んでいくにつれ、
その違和感は、暗闇に目が慣れるかのように、
一つの大きな流れの中に、見事に溶け込んでいきます。
その大きな時間の流れは、
どの場所の、どの登場人物の感情をも呑み込んで、
淡々と進んでいきます。

子供や弱い立場の者たちが痛みを負い、
言葉を持つ者でさえ、
その使い方がわからず途方に暮れている。
悲しみや怖れ、孤独、
不確かで不安定な思いだけが浮彫りになる。
人々の営みは一点の翳りもなく必然で、
何かが少しずつ欠如している。
あともう少し、
それが何なのかは、誰にもわからない。

映画の視線は、穏やかで優しく、
まるで、下界を見下ろす神の視線のように、
冷静さを保っている。
その景色は、悲しみで埋め尽され、
悲しみが世界の全てのようにさえ思えます。
しかし、
映画を観ている私は神様ではないので、
その景色の中に、人間の美しさを必死で探します。
善良なメキシコ人の家政婦にも、
モロッコの幼い兄弟にも、
傷を負ったアメリカ人の夫婦にも、
喪失感を抱えた日本の父娘にも、
等しく悲しみの試練が与えられる。
そして、
その不条理な運命の中で、
一縷の望みを求め、懸命に生きている。
悪い人間は一人も出てこない。
その健気な人間の姿が、
この映画の唯一の救いとなっていることに気づくのです。

複雑に交錯する時間と場所が、
一分の狂いもなく、緻密に織り込まれ、
観る者をぐいぐいと引き込みます。
映画が進むにつれ、
監督の伝えたいメッセージが、
少しずつクリアになっていくことに快感を覚えます。
さらには、
アメリカ人の妻(ケイト・ブランシェット)しかり、
メキシコ人の家政婦(アドリアナ・バラッザ)しかり、
登場人物一人一人に、
たしかなの存在感があり、
愚かさや健気さを感じさせるに十分な演技を見せてくれます。

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話題の菊地凛子の演技は、
聾唖の少女チエコの苛立ちや絶望感に肉迫していて、
想像していた以上に、素晴らしいものでした。
外国映画の中の日本人と言えば、
今だに、感情の起伏がなく平淡で、
退屈な存在として描かれることが多いのですが、
チエコというキャラクターは、
日本でもめったに描かれることのない、
聾唖者の孤独に焦点をあてた新鮮さも相まって、
他の登場人物を圧倒するほどエモーショナルで、
人間味溢れる、愛すべきものだったように思います。

監督は、メキシコ人のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ。
前作で製作を担当した『美しい人』でも、
いくつかのエピソードをオムニバス形式で繋いでいく手法を用いています。
『美しい人』は私の好きな映画で、
人間の弱さと、それに立ち向かう女性たちの姿が、
ためらう事なく描かれていました。
題材の重厚感と、
辛辣なまでに、登場人物の内に深く切り込む潔さ、
いずれも、前作を凌ぐ完成度の高さでした。(★★★★☆)

夜9時半からのレイトショーで観るには、
少々ヘビーな映画だったかもしれません。
「これがリアルだとしたら、相当キツい映画だよね」と言う私。
「そうかしら?」と母。
「だって、悪者が出てこなかったら、誰も報われないじゃん」私。
「みんなが善い人だとは思わなかったけど?」母。
そうくるか。。。

「ガエル・ガルシア・ベルナルって、超タイプなんだよね」という私、
「あんた、趣味悪いわね」と母に一蹴され、
初めての母との映画が終わりました。


『バベル』
2006年メキシコ映画
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ブラッド・ピット/ケイト・ブランシェット/ガエル・ガルシア・ベルナル/
   役所広司/アドリアナ・バラッザ /菊地凛子

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コメント(10件)

内 容 ニックネーム/日時
役所広司も出てるし、興味あるなー。
私もお母さんと映画なんて、覚えてる限りでは両親と3人で2回。
ひとつはグレムリン、ひとつはスペースバンパイア。教育に悪いかと。

私もガエル好きなんですけど〜。言うてもビジュアルだけやん!?
お母様のタイプが気になるわー。
Amy
2007/05/17 23:14
新婚さん、いらっしゃ〜い!

家族でスペース・バンパイア?イケてる・・・ビバ!頓珍漢家族!
たしかに、うちの母親のタイプとか、気持ち悪いもの見たさで、ちょっと気になる。
私はいい映画だと思ったけど、観る人によっては気が重たくなる人もいるみたい。でも、話題になった映画だから、旦那様とぜひ。
Ako
2007/05/18 17:09
Akoさん、こんばんは。
なかなかシビアな母上様ですな(笑)。
受け手の中で起きる映画との化学反応は、
映画本体とはまた少し別の物だと俺は思ってるので、
レビューを読んですごく納得できるし頷けるし、
Akoさんが別にひねくれてるなんて思わないよ、少しも。

オイラがお袋と初めて観に行った映画は、
確か 『E.T.』 だったと思う・・・。
とにかく落ち着きのない小学生だったから、
じっとしてるのが苦痛でならなかったんだけど、
なんか感動して2回つづけて観た記憶があります。
「東京タワー」じゃなくて「バベル」ってのがいいね(笑)。

あ、「1万円」の話、面白いなぁ。
栗本 東樹
2007/05/18 20:51
映画を観ること=作り手とのコミュニケーションだから、この人嫌だなと思うこともあれば、この人とは無性に合うと思う時もありますよね。ただ私は、出来ることなら、一人でも一作品でも多く分かり合えた喜びを感じたいとは思っています。ブログの中の栗本さんの言葉は何ものにも支配されていなくて、映画とちゃんと向き合っている感じがして、すごく好きです。
いいえ、私はひねくれものです。人からもよく言われるし。だから、同じ匂いのする映画には引き寄せられるんです。この映画も同じ匂いがしました。
『E.T』かぁ、時代ですね、なつかし〜。『東京タワー』を自分のオカンと観に行くのは、さすがに恥ずかしくて、私には無理。
Ako
2007/05/20 23:42
同じガエル君が主演の、だけどまるっきり役柄が違う、『恋愛睡眠のすすめ』も良かったら見てみてください。男版『アメリ』という感じの『恋愛睡眠のすすめ』にAkoさんがどういう感想を持つのかな−と気になる(笑)。
kusukusu
2007/05/23 00:31
私もGWにバベル見に行きました。
菊池凛子さん、存在感ありましたね…高校生に見えないところはあったけど。
汚されて自分の存在を確かめたいって感じがジンジンしました。
Babel
2007/05/23 00:47
>kusukusuさん
『恋愛睡眠の〜』も観たいと思っていたので、公開中に間に合わなかったら、DVDで是非観てみますね。ファンタジックで可愛いらしい映画のようなので、楽しみです。
コメントありがとうございました。
Ako
2007/05/23 23:29
>babelさん
babelさんが『バベル』を観ないわけにはいかないですよね〜。
今時の高校生、さすがに友達はいないですけど。感受性が強い子はとくに、自分の体を傷つけてでも生きている実感を得たいと思うのかもしれませんね。高校生だけじゃないい、人から拒まれるのは死ぬほど辛いし、まんま受け入れてほしいし愛されもしたい。女なら誰もが共感したのではないでしょうか。
Ako
2007/05/23 23:39
あー、『美しい人』、好きで嬉しい気がする(笑)
親と映画観にいった記憶はありません。
これからもないでしょう。
いい思い出になりましたね。
それにしてもかなりタフな母上、と察します。
kiku
2007/06/15 00:36
kikuさんの記事、興味深く読ませていただきました。kikuさんのブログは、考察が深く、こういう見方もあるのかと、いつも発見させられます。うまくコメントが出来なかったので、こちらに書きます。
目を凝らして見ていると、確かに、バベルの呪縛に絡めとられている人とそうでない人を見ることが出来ますね。その状況設定を、あざといと感じるか自然と感じるかの違いで、賛否両論があるのかもしれません。この映画には、それ以上でもそれ以下でもない潔さがあり、全編をとおして感じる淡白さに、私は好感を持ちました。
『美しい人』、kikuさんもお好きですか?私もあの映画では、ずいぶん感性をくすぐられました。
Ako
2007/06/16 02:52

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