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help リーダーに追加 RSS 『潜水服は蝶の夢を見る』

<<   作成日時 : 2008/02/22 11:09   >>

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何といってもタイトルがいい。
なぜ主語が潜水夫ではなく、潜水服なのか。
蝶の夢とはどんな夢なのか。
さまざまな想像を掻き立てるタイトルに、まず興味を持ちました。

この作品は同名小説の映画化で、
同時に、その小説が出来るまでの、
作家の体験を綴った物語でもあります。
観ていくうちに、
この興味深いタイトルが意味することが理解できます。

雑誌『ELLE』の編集長であったジャン=ドミニク・ボビー。
才能に恵まれ、華やかな世界で手腕を振るう。
シルバーメタリックに光る新車のベンツに乗り、
欲しいものは何でも手に入る、
誰もがうらやむ生活を送っていた彼に、突然降りかかった病魔。
重度の脳梗塞。
身体の機能のほとんどを失った主人公に残されたのは、
左目の自由と知力、
幸いにも記憶する力と創造する力は健康なときのままだった。

ロックト・イン・シンドローム
その名のとおり、
発する自由こそ失っているが意識は鮮明で、
あらゆる感情を表現できず、
意識が内面に閉じ込められた状態。
口で言葉を発することが出来ないが、
左目のまばたきだけで言葉を語ることを身につけることで、
彼の第2の人生が始まる。
YESがまばたき1回、NOが2回。

冒頭から映像の焦点は定まらず、
主人公の病床から見えるごく狭い視界だけが映し出されます。
一体何が起こったのか、
知らない誰かが心配そうに自分を見ている。
まるで子供に話しかけるように、
憐れみ、絶望し、戸惑う人々の表情を、
主人公の視界で捉えていきます。

「死にたい」
こんな状態で生きていても仕方がない。
そう思ったところで、そうする自由さえ残されていない。

しかし、この映画には一切の悲壮感は漂っていません。
原作を読んでいないので定かではありませんが、
それは、何事をも楽観する主人公の性格なのか、
すべてを知ったとき、
彼は今できること、するべきことを見つけ、
そのことに集中していきます。
手記を書くこと。

表現者として、自分の身に起こったこと、
これまでの自分の人生を振り返り、
記憶をたどり、自分と関わった人たちを想い、
出来たことや、出来なかったことを思い返します。
同時に、
頭のなかで描く空想の世界を自由に巡る旅に出ます。
意識は、それまでの目に見える狭い視界から、
無限に広がりはじめ、
病床から見える窓辺にかかるカーテンを抜けて、
大海原へ、中世ヨーロッパへ、美しい女たちのもとへ、
風に乗って浮遊していきます。

あからさまに、泣かせる映画ではありません。
モノローグで語られるこの物語に、
暗く悲観的な要素はほとんど見られず、
むしろ、人生がいかに自由なものか、
何者にもなれるかもしれないし、
何者にもならなくてもいいのかもしれない、
解き放たれた清々しい気持ちを起こさせます。
もし、自らは表現することなく、
来るものを受動するのみ、という環境に身を置いたなら、
それまで見えなかった、
何かすごく大切なものが見えてくるのかもしれない。
幸運にも、自分の目の前に現れた事を、
いかに拒絶し、捻じ曲げて、
勝手な解釈で、自分のものにしようとしていたかを知るのかもしれない。
そのことに気づかされました。

観る前に思っていたより、
コンパクトに、こじんまり収まっている、という印象の映画です。
病気や死、悲壮感に染められた物語では決してありません。
主人公のモノローグで構成されていることで、
過度に感傷的なシーンはなく、
等身大の人間が抱く希望が、ささやかに描かれているだけです。

2007年カンヌ映画祭で監督賞を受賞している本作ですが、
人間の存在のささやかさを愛おしく思える物語です。
そのささやかさこそが、
この映画の良心であり、全てだと思います。
(★★★☆☆)


『潜水服は蝶の夢を見る』
2007年フランス・アメリカ映画
監督 ジュリアン・シュナーベル
出演 マチュー・アマルリック/エマニュエル・セニエ/マリ=ジョゼ・クローズ/
    マックス・フォン・シドー/イザック・ド・バンコレ /エマ・ド・コーヌ

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